瓜蓋科学工業

小説

俺は佐川陽仕
ただの大学生だ

2年になるが
はっきり言ってニートに近い
 
他のやつは将来のことを考えて
勉強に研究にサークルに
けっこうマシな大学生活を
送っているように見える
 
俺は正直今の生活についていくのがしんどい

親に無理矢理行かされた大学
全く興味がわかない
とりあえずバイトをしながら
ボチボチ卒業を目指してはいる
 
総介「お〜い陽仕、ゲーセン行こうぜ?
   授業?サボッちまえよ〜。
   出席日数まだ大丈夫だろ」
陽仕「あ、あぁ。行こうか」
 
コイツは橋本総介
俺が大学で唯一話す奴だ
嫌な人間ばかりの世間で
1人だけ嫌じゃない人間だ

総介「見とけ!UFOキャッチャーの秘技!
   ブラブラストライク!」
陽仕「橋本〜。出禁喰らうぞそれ」

・・・

今日も無駄な1日が終わった
俺はいったい何をやっているのだろう
 
俺って、何か使い道があるんだろうか?
 

いつものようにボヤーっと動画を見ながら、
さっき作ったカレーライスをいただく
カレーは楽に作れるから1人暮らし向きだ
 
ん?科学研究員募集?
経験不要。条件もいいな
今のバイト飽きたし
これやってみるか?
 
本当に何気ない気持ちだった  
 
・・・
研究員「佐川陽仕君だね?ようこそ。
    仕事内容は極めて簡単です」
   「このチップを体に取り付けて、
    通常通り生活していただくだけです」
陽仕「あの、何の研究なんですか?これは」
 
研究員「人工知能。いわゆるAI技術の発展のため、
    よりリアルな思考ができるよう、
    実際に人から情報サンプルを取っています」
 
AIか
時代が時代なだけに
よりリアルな性能が求められてきてるんだな
 
陽仕「わかりました。
   チップはどのように取り付けるんですか?」
研究員「背中にこの特殊な器具を装備するだけです。
    服を着てしまえば目立ちません」
   「1ヶ月間、絶対に取り外してはいけませんよ」
 
・・・
陽仕「そんなバイトを始めたんだよ〜。
   楽で良さそうじゃね?」
総介「いいな!俺もやろうかな。
   詳細教えてくれよ?」
陽仕「俺の体でもさ。
   そんなAIの研究で世の中の役に立てるんだな〜」
 
「何盛り上がってんのあんたたち?」
 
こいつは小林需奈
あまり話はしないが、
小遣いをやるといつもノートを写させてくれる
 
需奈「私にも教えなさいよ。バイトの話でしょ?」
 
さすがお金大好き小林需奈
 
そして、俺たち3人はこの科学研究員のバイトを
しっかり1ヶ月こなした

研究員「ご協力ありがとうございました。
    器具を回収します。こちらが報酬です」
 
なかなか良い額だ。あいつらももらってるだろうし
焼肉に行きたい
 
・・・
総介「うっほ〜!焼肉なんて超久しぶりだぜ?
   マジうめぇ!」
需奈「なんかあんたたち、生き生きとしてるわね」
陽仕「そりゃあこんなうまい焼肉食えたらなぁ。
   本当に毎日食いたいよ」
 
陽仕「そういえばさ、この間橋本見かけたよ。
   定食屋でさー。声かけたんだけど、
   スルーされた。急いでたの?」
総介「ん?俺その定食屋行ったことないよ?
   人違いじゃね?」
陽仕「あれ絶対橋本だったって!
   覚えてないの?」
総介「すまん。わからん」
 
需奈「あたしも見たわよ?
   なんかパソコン教室っぽいとこに入って行った」
総介「俺パソコンなんてやらね〜し」
 
???

・・・
今日はまあ珍しく楽しい1日だった
 
焼肉も食えたし
毎日こんな楽しい日が過ごせたらいいが
 
翌日・・・
昨日あれだけ楽しく話していた
橋本が交通事故で亡くなったらしい
 
マジだった。信じられない気持ちでいっぱいだ
 
陽仕「何故、こんなことに・・・橋本、嘘だろ?」
需奈「ショックね。
   身近でこんなことが起きてしまうなんて」
 
大学のゼミも重苦しい空気だ

・・・
電話だ。小林からか
 
陽仕「もしもし?どうした?」
需奈「ねー!ヤバイよ!
   私、さっき橋本見かけたんだけど?」
陽仕「え!?あいつ、亡くなったはずだろ?」
需奈「橋本だって!え、てか、いるし!
   こっちに来てる!や、やめて!」
 
ぎゃあぁぁぁ!!

陽仕「おい!小林!?小林!?返事しろ!
   どうした!?小林!?」
  「すぐ行く!どこだ?
   そのBGMは駅前のカメラ屋か!待ってろ!」
 
現場に行ったら規制線が貼られていた
通り魔の殺人事件だ
 
被害者は小林需奈
 
嘘だろ!?嘘だ嘘だ嘘だ!
俺たち3人の共通点って
あのバイトだろ!?
もしかして次は俺なんじゃ?
 
・・・
気が狂いそうだ
俺はしばらく引き込もった

小林は殺される前
橋本が来たと言っていた
 
あのバイト、まさかクローンでも作っているのか
まさかな?
 
そしてデータをコピーした本体は
いらなくなって消しに来てるとか
まさかな?
 
・・・
しばらくして
ようやく外に出れるようになった
 
大学に行こう

・・・
気分がコレのせいか
俺は久しぶりに大学の講義をまともに聞いていた
 
まともに聞くとやはりたるい
 
キンコンカンコーン
 
さて、帰るか
 
帰り道

俺は自転車で大学に通っている
ゲーセンや焼肉屋、駅前は避けるように
普段より遠回りで帰っている

・・・
い、今の?
小林だよな?
 
間違いない。小林だ

ヤバイ。目が合う
トラウマか?
 
俺は精神的に追い詰められていた
 
パソコン教室だ
 
は、橋本!?

ヤバイ。完全にヤバイ!
とりあえず逃げよう!

自転車を全力で飛ばして
明るいところに逃げた

嘘だろ!?小林、橋本
 
・・・
え、あそこ
俺がいる!?
 
目が合ってしまった
「見つけた・・・」

そう聞こえた気がした・・・

それからは特に何もなく
日常を過ごし
小林や橋本の記憶も消し去りつつあった
そんなある日

・・・
速報です。違法なクローンを製造しようと
闇バイトでサンプルを収集していた疑いの
瓜蓋科学工業が先程摘発されました

・・・
瓜蓋!?

あのバイトの会社だ!
クローンって!?

やっぱりあれは!?
 
ヤバイ!ヤバイヤバイヤバイ!
 
よし。もう引っ越そう
全てを忘れる!

数週間後
俺は新しい家に引っ越し
普通な日常を過ごし始めていた
 
ピンポーン
お届け物です
 
陽仕「はいは〜い。印鑑印鑑と」

ガチャッ

陽仕「はい〜」

・・・
「見つけた」