紀田渓ハウス

小説

僕は澤田真助
いつものようにギターを一本抱えて
路上ライブをやっている
 
人に聞かしたい
わけではなく
気晴らしのために
ジャカジャカやっている

たまに人は来るが
9割変な人だ

うわ
出たアイツだ

「先輩、またやってんすか?
相変わらず下手ですね」

こいつは外山英治
基本なめてる。だいぶウザいやつだ
 
英治「この曲はこうやるんすよ。
   ちょっとギター貸してください」

真助「上手いな。さすがだよ」
英治「こんなのできて当たり前ですよ。
   そんなんじゃ女に響きませんよ。
   恥ずかしいからそこの電車の壁で
   練習してください」

はぁ。コイツが来ると楽しいものが楽しくない

英治「先輩、怪談聞いてくださいよ」

出た。なんでコイツはこんなに絡んで
怪談を話したがるんだ
まぁ、僕はコイツくらいしか
絡む人間もいないし
コイツはコイツでこんな人格だから
絡みやすいのが僕くらいしかいないんだろう

真助「いいよ」
英治「紀田渓ハウスって知ってます?」
真助「名前だけは。
   けっこう有名な心霊スポットでしょ?」
英治「そそ。
   友達が肝試しに行った話を聞いたんですよ」
英治「こっから名前呼ぶの面倒くさいから男がA。
   もう一人男がB。女がCね」
真助「あいよ」

C「ねー。やっぱり怖いよ〜やめようよ」
A「紀田渓ハウス。
  ここら辺で最恐の心霊スポットだ」
B「昔、経営難に陥ったここのオーナーが
  焼身自殺を図り、
  それ以降不思議なことが絶えず。
  取り壊しもできずにいるらしい」
 
A「うわ!これだ。マジ雰囲気ヤバイ!」
B「カメラは準備オッケー。
  ってあれ?シャッター押せない?
  何で?あっ直った」
C「ちょっとやめてよー!私帰る〜」
B「いーじゃんもう。
  1人で引き返したり待ってたほうが
  よっぽど怖いと思うよ」
A「言い出しっぺCだからな?
  ま、怖くなったら
  俺に抱きついてくれていいから」
C「最低〜。やらし〜。もーわかったわよ」
 
カシャッカシャッ!
 
A「なんか写ったか〜?」
B「いや、全く」
C「想像に反して何も起きないね。
  もーいいんじゃない?帰ろ?」
B「ダーメだ。こんな撮れ高ゼロじゃ。
  つまらん」
A「とは言え、携帯のバッテリーが切れてきたな」
B「あれ?俺もだな。けっこうあったはずなのに」
C「私も!」
 
しばらく探索したが何も起きなかった
 
B「チェッ。何が最恐だ。笑わせやがって」
A「仕方ない。戻ろう」

・・・
A「あれ?俺たちってこの扉から来たよな?
  鍵かかってんだけど?」
C「え!?嘘でしょ?
  間違いなくここから来たわよ」
B「マジか?ちょっとそこから扉覗いてみる」
 
B「おいおい。ヤバいぜ。
  がっちり南京錠がかけられてる!」
C「えっ!?えっ?どうするのよ!?」

着信音

A・C「わぁぁー!!!?」
 
C「ちょ!私の携帯!やだ!非通知よ?」
A「こんな時間に?誰だよ?」
B「貸してみろ!俺が出る!」
A「おい!よせ!」

B「・・・何も聞こえん?換気扇かな?程度」
C「返して!」

きゃあ!

A「どうした?」
C「これ、男の人のうめき声!」
A「マジか!?貸してみろ」
 
その瞬間

うぁぁぁぁぁ

A・B・C「うわあ!」
A「ヤバイ!ヤバイって!携帯置いて逃げろ!」

俺たちは窓ガラスを叩き割って脱出し
帰宅した

・・・
数週間後

一通の葬儀案内が届いた
A「葬儀?誰のだ?」

!?Bが亡くなった!

特急列車が来ているところに
フラーっと出ていって

パンッ!

即死だったそうだ
葬儀の棺に遺体がなかった

それほどひどい状態だったのか・・・

そして、さらに数週間後

Cが行方不明になった

・・・
俺だけ?生き残る?

そして数年後

俺はそのことを忘れ、普通に生活をしていた
 
母「A!?A!?電話よ?
  なんとかハウスから!旅館?かしら」
A「電話?誰だろ。旅館?」
A「もしもし・・・?」

???「こんにちは。
    あなたのお友達がだいぶ前に当旅館で
    携帯を落としませんでしたか?
    持ち主を探しています・・・」

ブチッ

A「あれ?切れた。何だったんだろう?
  イタズラかな?」

そして俺は母が書いたメモ書きを見てゾッとした

そこには
カタカナで
キダケイ
と書いてあった

紀田渓ハウス
全てを思い出した

着信履歴がある
かけてみようか?

・・・発信音

・・・この電話番号は現在使われておりません・・・

英治「はい。終わり」
真助「うわ!怖っわ!」
英治「ちなみにAとCは自分の友達ね。
   Bがホントに死んだかは知らんけど、
   Cがいなくなったのはマジです」
真助「マジかよ。知り合いってのがヤバイわ」
英治「先輩、今から行きません?
   女連れてきますよ?」
真助「いーや。僕は遠慮しとくよ」
英治「そっすか。じゃ路上頑張って!
   すんません邪魔して」